「AIは数字を作らない」:集計はプログラム、文章化だけAIに任せる理由
当社が作るAIの仕組みでは、数字の計算をAIにさせません。集計はプログラムが行い、AIはその数字を文章にするだけ。経営の報告や営業の週次報告で、なぜこの分け方にしているのかを、実際の設計とあわせてご説明します。
「AIに月次の数字をまとめてもらえば、報告書づくりが楽になるのでは」。こうしたご相談をよくいただきます。答えは「楽になります」です。ただし当社では、ひとつだけ決めごとを置いています。
数字はAIに作らせない。 集計や計算はプログラムが行い、AIはその結果を読みやすい文章にする部分だけを担当します。
この記事では、当社が自社とグループで動かしている仕組みを例に、この分け方にしている理由をご説明します。
AIは「もっともらしい数字」を書いてしまう
文章を作るAIは、言葉のつながりとして自然な文章を作るのが得意です。一方で、表の数字を足したり、前月との差を出したりする作業では、計算の途中を間違えることがあります。しかも間違った数字も、正しい数字と同じくらい自然な文章の中に入ってきます。
経営の会議資料に、もっともらしい間違いが一つ混ざると困ります。読む人は文章のなめらかさで中身を信じてしまいますし、間違いに気づいたときには、ほかの数字まで疑わしく見えてしまいます。
そこで当社では、仕組みを次のように分けています。
- プログラムが数える・計算する:毎回同じ答えが出る方法で、数字をすべて確定させる
- AIが文章にする:確定した数字を材料として受け取り、説明や要約を書く
- 人が確かめて使う:最後に読むのは人。判断も人が行う
例1:経営会議の報告文(CS Agent)
当社の業務基盤「CS Agent」には、契約の数字から経営会議用の報告文を作る機能があります。
ここでは、契約の純増や年間に直した金額、お客様1社から長く得られる売上と獲得にかかった費用の比率など、会議に出す数字はすべてプログラムで計算し終えてからAIに渡します。AIの仕事は、その数字を使って文章を組み立てることだけです。
さらに、AIが書いた文章から数字を拾い出し、渡した数字の一覧に無いものがあれば警告を出す確認も入れています。この警告は、文章を止めるためではなく、人が確かめるべき場所を指すためのものです。「12か月」のような文脈上の数字まで拾ってしまうので、止める仕組みにすると使いものになりません。
また、こちらから渡した注記や断り書きに出てくる数字は、警告の対象から外しています。ここまで拾うと毎回警告が出てしまい、警告そのものが読み飛ばされるからです。警告は、多すぎると無いのと同じになります。
作った報告文は、そのとき使った数字と一緒に保存しています。あとで元のデータが直っても、「会議で配ったのはこの数字だった」を再現できるようにするためです。AIが使えないときは、決まった型の文章で数字だけを並べた報告が出るようにしてあり、報告そのものが止まることはありません。
例2:仮説を考える分析でも、数字は渡す
同じCS Agentには、打ち手を考えるための「AI経営分析」もあります。こちらは報告文と違い、AIに仮説や提案を書いてもらうのが目的です。
それでも、数字の扱いは同じです。商材ごとの月ごとの推移や解約の割合などは、桁の区切りや単位まで整えた形でプログラムが用意してから渡します。そのうえで、AIには「事実」と「推測」を分けて書かせています。
もうひとつ大事にしているのが、持っていないデータを、持っていないと伝えることです。たとえば当社の契約データには、お客様の業種の情報がありません。そのことを材料の中にはっきり書いて渡しています。書いておかないと、AIが業種の傾向を推測で語り出してしまうからです。
例3:営業の週次報告(SalesAgent)
当社の営業支援の仕組み「SalesAgent」は、AIが営業の下準備を進め、その結果を週ごとに報告します。
ここでも、取得した見込み先の件数、送った件数、反応の件数などは、プログラムがすべて数えます。AIは、それを営業担当が読む10行以内の文章にまとめるだけで、渡した数字にない数字は書かせません。
また、何も起きなかった週や、AIの呼び出しに失敗した週は、AIを使わずに決まった型の文章を出します。「今週は特に動きがありませんでした」をAIに飾って書いてもらう必要はないからです。
身近なところでは、当社の請求書の確認でも、金額の照合は集計表の数式で行い、AIには請求書の読み取りだけを任せています(請求書の確認をAIに任せた話)。
御社で取り入れるときの考え方
この分け方は、特別な技術がなくても考え方として取り入れられます。
- 数字が出てくる業務は、まず「計算」と「説明」に分ける:計算は表計算やプログラムで、説明はAIで
- AIに渡す材料に、使ってよい数字をすべて並べる:AIに計算させる余地を残さない
- 無いデータは「無い」と書く:推測で埋めさせない
- AIが止まっても、数字の報告は止めない:型の決まった文章で代わりを出す
AIに任せるのは、数字を読みやすく伝えるところまで。数字そのものは、毎回同じ答えが出る仕組みで作る。地味ですが、経営の判断に使う情報ほど、この分け方が効いてきます。
この記事は、当社のCS Agent・SalesAgentの設計書とプログラムの記録(2026年10月時点)をもとに書いています。いずれも当社と当社グループでの運用です。
